●「有名野菜品種特性研究会(スイカ)」報告●
企画担当理事  栗山 尚志
【開催日時】
2010年5月18日(火)  13:30〜17:00
【開催場所】
女子栄養大学 駒込校舎
【参加者】
90名(種苗・育種、野菜調理・加工・開発、生産者、農協、公的機関、消費者、マスコミ)
【座長】
理事 吉岡 宏

開催趣旨
 スイカは果実的野菜の中でわが国に導入された歴史は古く、盛夏に欠かせない食品として栄養・薬理面からも注目されて、とりわけ大戦後の生産・消費量の急上昇は目を見張るものがありました。しかし昭和45年頃をピークにして種々の要因が重なって人気の出た小玉スイカの登場にもかかわらず生産・消費は減少傾向にあります。一方、大玉・小玉ともに品種改良は着実に進歩しているようです。
 この研究会では大玉・小玉品種を同時に試食し、最も関心の高いと思われる糖度のほか、肉質/シャリ感をおいしいスイカとして各社が推薦出品する品種の数々を比較検討します。これら情報が消費拡大に役立つ事を期待いたします。なお、今回はハウスでの早期生産物を対象とします。
研究会
 今野聰理事長の開会の挨拶に続き、スイカに関する話題提供が行われた。
 講師 : 千葉県農林総合研究センター 北総園芸研究所東総野菜研究室 町田 剛史氏
講演趣旨
 16〜17世紀に日本へ伝来以来、近年までの品種の変遷と近年の品種の特徴が述べられた。今後に期待される育種目標として「店持ち性の向上」「果肉色が鮮やかなこと」「裂球・空洞果の発生の少ないこと」「低温着果性の向上」「種なしスイカの問題点の改善」「作業性の向上」などがあげられた。
 栽培上の留意点として、とりわけ根の伸張、根毛発生、花粉の発芽・その後の伸張などの「適温が主要果菜類より高い」ことから、低温対策が重要であり、交配、整枝作業を適確に行うことで一斉着果、一斉収穫が可能になる。併せて収穫調整時間が他の果菜類に比べて極めて短い。
 スイカの栄養成分に言及され、生体反応に欠かせないカリウム、利尿作用のあるシトルリン、抗酸化作用のあるリコピンのほかビタミンB,C、イノシトールが、種子にはリノール酸、タンパク質、シルトリン、ビタミンB群、ビタミンEが含まれると紹介された。
出典品種と糖度・果皮の厚さ
大玉種    
(A)
生産地:
熊本植木
品種名:
紅まくら
メーカー:
タキイ種苗(株)
糖度:
中心 14.4%
中央部 10.9%
皮の厚さ:
10.92cm
(B)
生産地:
茨城
品種名:
筑波の香
メーカー:
東洋農事(株)
糖度:
中心 12.6%
中央部 11.1%
皮の厚さ:
9.74cm
(C)
生産地:
熊本市
品種名:
サマーオレンジ
メーカー:
ナント種苗(株)
糖度:
中心 11.5%
中央部 9.6%
皮の厚さ:
12.17cm
(D)
生産地:
奈良県鹿本
品種名:
祭りばやし
メーカー:
(株)荻原農場生産研究所
糖度:
中心 13.1%
中央部 12.2%
皮の厚さ:
14.08cm
(E)
生産地:
熊本県
品種名:
味で勝負 is
メーカー:
(株)松井農園
糖度:
中心 12.6%
中央部 10.6%
皮の厚さ:
11.74cm
 
小玉種
(あ)
生産地:
奈良県
品種名:
愛娘
メーカー:
ナント種苗(株)
糖度:
中心 12.1%
中央部 11.2%
皮の厚さ:
4.53cm
(い)
生産地:
奈良県鹿本
品種名:
ひとりじめ7
メーカー:
(株)荻原農場生産研究所
糖度:
中心 13.8%
中央部 13.2%
皮の厚さ:
5.3cm
(う)
生産地:
熊本市
品種名:
おまちかね
メーカー:
(株)松井農園
糖度:
中心 13%
中央部 12.5%
皮の厚さ:
4.96cm
(え)
生産地:
長崎県島原
品種名:
マダーボール
メーカー:
みかど協和(株)
糖度:
中心 12.3%
中央部 10.9%
皮の厚さ:
5.48cm
(お)
生産地:
茨城県
品種名:
味良来
メーカー:
ハナワ種苗(株)
糖度:
中心 12.3%
中央部 11%
皮の厚さ:
7.69cm
(か)
生産地:
千葉県
品種名:
愛娘 ひなた
メーカー:
ナント種苗(株)
糖度:
中心 10.4%
中央部 9.6%
皮の厚さ:
8.75cm
 引き続き、千葉県農林総合研究センター生産技術部 宮崎丈史氏から農林水産省補助事業平成21年度野菜等健康食生活協議会やさいのおいしさ検討部会「スイカの甘み表示に関する意識調査結果報告書」の概要が紹介された。
 注) 2010年5月26日(水) 開催のフォーラム総会・講演会で報告書配布済み
    本会のホームページからも見られます。
食べ比べ
 食べ比べ用に提供いただいた品種は上記の通り「大玉5品種」「小玉6品種」で各品種は記号で表示され、参加者に配布した評価表に特性別に評価
 特性別に3段階評価 【◎:秀でている、○:優良である、▲:やや劣る】
をしていただいた。食べ比べ終了後、評価表を回収した。評価表の回収率は85%であった。
 なお、糖度および果皮の厚さの測定は、食べ比べ直前に千葉県農林総合研究センター野菜研究室所員塚本崇志氏にご協力いただいた。評価表とりまとめの結果は後述する。
出品品種の説明
 各品種出品会社から別途配付資料を参考にしつつ、品種の特性について説明が行われた。
自由討議
 一般消費者、生産者、試験場、大学研究者、流通・加工・販売業者、種苗業育種家らの広範な経歴人が、集合しての研究会だけに、討議の内容は多々であった。品種育成種苗会社がおいしいスイカとして推薦・出典したもの故に各品種それぞれ特長があり、概ね満足できるものとの評価であった。
 甘さが第一評価の対象となるが、甘い果実が豊富に出回っている昨今は、高糖度であることよりも、みすみずしさ、シャリ感、香り、旨みなどが重視される傾向にある。特に近年は甘い物をそれほど好まない子供が増加しているとの指摘は注目すべきで、ほぼ周年に供給されているスイカは季節により好適な甘さが変化すること、またスイカを食する適温は15℃程度であることに留意されたいとの意見があった。
 シャリ感が甘さに次ぐ重要形質と考えられるが、この面では特に小玉品種の改良が望まれた。
 今後の品種改良への要望として「種なしスイカ」に対する期待が多く、通常、破棄される果皮部位の利用法のほか、スイカ加工利用法の開発も期待したいとの声があった。
 種苗会社の中には近年の消費者の嗜好の変化に注目しつつ、スイカの消費拡大に関係する大玉スイカのカット販売を対象とした流通面での適性の向上に取り組んでいる、との頼もしい発言もあった。なお、徐々には進んでいると見られる「品種表示の徹底の重要性」が述べられた。
 最後に大澤 敬之副理事長から閉会の辞が述べられ研究会を終了した。
試食アンケートの集計結果
1.大玉系品種の試食結果
2.小玉系品種の試食結果
試食アンケート【評価表】結果のコメント
1.各品種の評価について
【大玉品種】
(1)
大玉A品種について
 
  • 総合評価の(男女)全体で、秀でていると、優良であるの評価が約90%と高評価であった。
  • 特に女性の評価が高く、果肉色の評価でも高かった。
(2)
大玉B品種について
 
  • 総合評価で、秀でていると、優良であるの評価が約90%弱で、比較的評価が高かった。
  • 各項目について、男女間の差異は少なかった。
(3)
大玉C品種について
 
  • 果肉色の評価は比較的高かったが、シャリ感、甘み、総合評価はやや劣った。
  • 男女間での評価の差異は少なかった。
(4)
大玉D品種について
 
  • 総合評価の全体で、秀でている、と優良であるの評価が約95%と高い評価であった。
  • 肉質ではやや評価が低いが、シャリ感と、甘みの評価が高かった。
(5)
大玉E品種について
 
  • 果肉色の評価がやや低かった。
  • 総合評価もやや低い傾向で男女間の評価に差異はなかった。
【小玉品種】
(6)
小玉 品種について
 
  • 総合評価および甘みで、秀でている、優良であるで約90%の高い評価で男女とも同傾向
  • 果肉色の評価が、秀でている、優良であるでほぼ100%と極めて高かった。
(7)
小玉 品種について
 
  • すべての項目で、秀でている、優良であるが80〜90%で比較的評価が高かった。
  • 男女とも同じ傾向であった。
(8)
小玉 品種について
 
  • 肉質とシャリ感で評価がやや低かった。
  • 男女とも同じ傾向であった。
(9)
小玉 品種について
 
  • 甘み、シャリ感での評価がやや低く、総合評価でもやや低かった。男女とも同傾向。
  • 果肉色の評価は、秀でている、優良であるの評価が約90%と高かった。
(10)
小玉 品種について
 
  • 果肉色の評価はやや低かったが、シャリ感、甘みの評価が高く、総合評価も比較的高い。
  • 男女とも同傾向であった。
(11)
小玉 品種について
 
  • 全項目でやや評価が低く、甘み、総合評価で評価が低かった。
  • 男女とも同傾向であった。
2.アンケート全体について
(1)
大玉系品種では総合評価がシャリ感と甘みの評価の中間に位置する傾向が感じられた。
(2)
小玉系品種では総合評価と甘みの評価の相関が高い傾向が見られた。
(3)
男女間の評価が分かれたのは、大玉A品種の果肉色と総合評価であった。
 
  • 甘み、シャリ感の評価に男女間の差は少なかったが、果肉色と総合評価には男女間差が認められた。
  • 男性は総合評価と甘みやシャリ感などの食味との相関が強く、女性は果肉色などの外観品質も加味して評価している傾向が示唆された。
(食べ比べ評価表のとりまとめ担当 大崎 伸介理事)
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