第10章 野菜のおいしさに関する文献調査
野菜茶業研究所 堀江 秀樹
2 文献追録

 これまで野菜のおいしさに関連する文献については平成18年度にキュウリ、ニンジン、ホウレンソウ、19年度にレタス、ダイコン、20年度にナス、ピーマンについてまとめた。最近公表された文献について追記する。

(1)キュウリ
 キュウリにおいては食感が重要である。Yoshiokaら1)はパリパリした食感を機器評価する指標を提案し、パリパリ感には品種の影響が大きいことを示している。接ぎ木によってキュウリの品質は低下するともいわれる。Sakataら2)は、接ぎ木した果実と、自根の果実について、果実の物性を比較し、差がないことを示した。さらに、接ぎ木、自根に関わらず果実を貯蔵することにより、硬さが増すことを明らかにした。

 味については、キュウリの切断面ににじむ液は渋く、それはギ酸によると堀江ら3)は示した。またギ酸を含む維管束の液は、ヘタと実をこすりあわせると減るので、この調理法は渋味低下に有効と解釈している。さらに、収穫前の天候により味が変動する可能性、モニタリングに血糖センサーが利用できることを堀江ら4)は示している。

 キュウリの塩揉みについて、香気の面からの解析がなされた5)。塩揉みの条件により、(E)-2,( Z)-6-ノナジエナールの含有比に差が認められた。

  1. Yoshioka, Y., Horie, H., Sugiyama M., and Sakata, Y. (2009) Quantifying
    cucumber fruit crispness by mechanical measurement. Breed. Sci., 59, 139-147.
  2. akata, Y., Horie, H. Ohara, T. Kawasaki, Y. and Sugiyama, M. (2008) Infl uences of rootstock cultivar and storage on texture of cucumber fruit. J. Japan Soc. Hort. Sci., 77, 47-53.
  3. 堀江秀樹、玉木有子(2008)キュウリの渋味要因と調理操作による低減. 日本調理科学会誌, 41, 378-382.
  4. 堀江秀樹、大澤敬之(2009)キュウリのおいしさ評価法の開発 5. 収穫前の天候が味に及ぼす影響. 園芸学研究, 8別2, 593.
  5. 川上美智子、小西優子、日水教子(2009)キュウリとニガウリの調理塩揉み工程における香気の変化. 日本家政学会誌, 60, 877-885.

(2)ニンジン
 ニンジンが蒸し加熱すると甘味が強くなる。この要因は糖含量の増加ではなく、軟化によりジューシーになり、甘味成分が口腔内に広がりやすいためとされる1)

  1. 堀江秀樹、平本理恵(2009)ニンジンの蒸し加熱による甘味強化.日本調理科学会誌, 42, 194-197.

(3)ホウレンソウ
 ホウレンソウの葉の表面に白色の球状顆粒が付着する。これは無機塩の結晶ではなく、シュウ酸などを含む水溶液が脂質膜に包まれたものである1)

 村山らは有機栽培と慣行栽培の間で、品質比較を行っている2)。調査は有機栽培とそれに隣接した農家地域で同一作型のホウレンソウを対象に、ペアで成分比較した結果、β-カロテンは慣行栽培区で多く、グルタミン、プロリン等遊離アミノ酸は、有機栽培区で多かった。英国のFood Standard Agencyでは、文献をレビューした結果有機農産物が慣行栽培農産物よりも栄養成分や健康効果に優れるとはいえないと報告3)しており、有機栽培と慣行栽培の品質差を考察するうえで興味深い。

 寒締栽培は東北地方の厳冬期に行われる栽培法であり、ハウスの裾を上げて外気をとりいれる方法である。寒締ホウレンソウのショ糖含量は、収穫前日の平均地温と負の相関を示し、硝酸含量は平均地温と正の相関を示した。すなわち寒締めにより、硝酸含量が増加することはなく、食味のよいホウレンソウが出荷できる)。

  1. 堀江秀樹(2008)ホウレンソウの葉表面に付着する白色顆粒. 園学研. 7, 135-138.
  2. 村山徹、宮沢佳恵、長谷川浩(2008)秋冬作ホウレンソウの品質に対する有機栽培と慣行栽培の差異.食科工, 55, 494-501.
  3. http://www.food.gov.uk/news/newsarchive/2009/jul/organic 
  4. 青木和彦(2007)寒締めの低温におけるホウレンソウの硝酸含量低減.農及園, 82, 993-997.

(4)レタス
 レタスは苦味が強すぎると嫌われる傾向にある。苦味成分として、あるいは機能性成分としてセスキテルペン類の分析が進んでいる1−3)。レタスの栽培種では、野生種よりセスキテルペン類が少なく、苦味も弱いと推定される。韓国においても、苦味との関連でリーフレタスの分析が行われている4)

  1. 荒川浩二郎、田中雅透、中村浩蔵、南峰夫、松島憲一、根本和洋、石田了、六角啓一(2007)レタスにおける sesquiterpene lactons分析用試料の調製方法.北陸作物学会報, 42, 120-124.
  2. 荒川浩二郎、南峰夫、松島憲一、根本和洋、中村浩蔵(2008)Lactuca属とCichorium属におけるセスキテルペン含量の変異. 園学研, 7, 499-504.
  3. 荒川浩二郎、南峰夫、松島憲一、根本和洋、中村浩蔵(2009)レタスの部位と生育ステージによるセスキテルペンラクトン含量の差異. 園学研, 8, 13-17.
  4. Seo, M. W., Yang, D. S., Park, K. W., Kays, S. J. and Lee, G. P. (2009)
    Sesquiterpene lactones and bitterness in Korean leaf lettuce cultivar.
    HortScience, 44, 246-249.

(5)ダイコン
 生および浅漬けダイコンのテクスチャー評価法として、直径10mm、厚さ5mmのディスク試料を直径25mmの円筒型プローブで圧縮する方法が提案された1)

  1. 小宮山誠一、加藤淳、目黒考司、山口敦子、山本愛子(2009)ダイコンのテクスチャー評価法と浅漬け加工に伴うテクスチャー変化. 園学研, 8, 101-107 (2009).

(6)ナス
 ナスの新品種「サラダ紫」の物理・化学特性、及び、味覚センサー用いて他品種と比較がなされた。その結果、渋味が少なく口に入れた時の旨味や甘さが引き立ち、後味はすっきりして生食サラダ用に適すると判定された1)

  1. 曽我綾香、吉田誠、小清水正美、北浦健生、北宣裕 (2009) ナスの新品種‘サラダ紫’ の果実品質特性.神奈川県農業技術センター研究報告, 151, 9-14.


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