●中国・上海野菜事情視察研修レポート●
【期間】
2008年11月18日(火)〜20日(木)
【訪問地】
<18日> 上海市江橋批発市場経営管理有限公司(上海市中央卸売青果市場)
<19日> 上海高榕集団(野菜加工輸出企業)
上海孫橋農業科技股●(にんべんに分)有限公司(国立農業科学技術院研究所)
<20日> 上海農業科学院園芸研究所
<18日>
 今回の研修はすべて、3年前まで2年間、中国の崇明島で野菜の栽培・加工・輸出の指導に当たっていた大崎伸介理事のお世話で実現したもので、かねてより会員の念願だった。参加者は14名。9:25羽田発、時差1時間の上海虹橋空港着11:50。羽田、虹橋はともにドメスティックな空港なので、外国に来たという印象が希薄なまま、専用車に乗り込み、宿泊ホテル「美麗園龍都大酒店」に向かった。荷物を解いてから中央卸売青果市場を見学することに。車中から眺める街は、乾期のせいか、工事が多いせいか、埃っぽく、活気のある様子にようやく「上海」に来た実感が沸いてきた。

宿泊したホテル「美麗園龍都大酒店」

 車中では、この後通訳などいろいろお世話になった上海農業科学院園芸研究所の陸世鈞さんに、上海の野菜事情を少しうかがった。例えば、上海の街にはいわゆる八百屋さんは見かけない。街の人は市場で野菜などの食品を買う。常設の小売市場は、小売りに対して国が家賃や管理費に補助金を出していると聞いて驚く。とはいえ、最近の若い層は市場に行かず、スーパーマーケットで買うスタイルになってきたそうだ。日本も通ってきた道のように思う。

●上海の野菜の60%を扱う中央卸売青果市場
 リヤカーに山のように野菜を積んだ人が行き交うようになったと思えば、いよいよ上海中央卸売青果市場着。バスで乗り入れた界隈には、荷台いっぱいに白菜を整然と山積みしたトラックが何台も! その先には荷台いっぱいキャベツ山積みのトラック、中国セロリのトラック…。一種類山積み野菜のトラックが何列もなして並んでいるかと思えば、山積み野菜のリヤカーを引く人たちが縫うように通り抜ける…そんな光景に、一同感嘆の声を上げ、ひたすらカメラを向けた。同行の大田市場関係者によると、市場の光景は日本の昭和30年代に通じるとの感想だった。

キャベツ山積みのトラック 

リヤカーにも野菜を山積み

市場は日本の昭和30年代のような光景

 会議室に移り、副責任者である李光集さんに市場の概略をうかがった。

 この中央市場は国営で1994年に開設。広さ約13万3000u。取引のメインは野菜だが、これから肉類もスタートの予定。去年1年間の取扱量は143万トンで、今年はさらに10%アップ。上海市の野菜の60%以上を扱うが、取引方法には以下の2つのパターンがある。
@市場取引の内35%は、ICカードで売買を管理する方法。農産物を自由に持ち込み、取引が成立したらその額に応じて手数料を市場に支払う。
A市場取引の内65%は、持ち込んだ農産物の量に応じて予め手数料を市場に支払い、後は自由に売買する。

 Aでは、市場に入る時にトラックごと野菜を計るダイナミックさに唖然としたものだ。


会議室で 市場の概略をうかがう

ダイナミックにトラックごと野菜を計る
 この上海エリアの野菜は日本には輸出されていないが、気になるのは野菜の安全性、農薬の問題である。基準は昔からあったが、なかなか守られなかったり、指導が行き渡っていなかったそうだ。2002年のWTO加盟により農薬の基準はきびしくなったが、法律より市民の意識が高くなっていることが背景にあるとのこと。昨年の中国餃子事件以来、さらに農薬検査を重視するようになり、そのための市からの補助金も出るようになった。市場では日本に社員を派遣して管理を学んでおり、李さん自身一昨年に大田市場を訪ね、その管理に感動して、日本を目標にがんばっていると聞いた。

 中国には、日本の農協のような組織はない。大手農家が、農薬も含めて管理できる範囲で農地を確保し、人を雇って栽培させたものをエージェントが市場に運ぶ。それを市場で安全検査を行うのが通例だ。役所から不定期の検査チェックも入るようになったそうで、安全性への配慮が強調された。
●エリア単位で行われている売買は、ダイナミックで自由?!
 いよいよ市場見学だ。16:00を過ぎていたので、日本ならもう取引は終わっている時間だが、ここでは12:00〜22:00頃までは二次卸しで他の市場に持っていく取引が活発に行われるそうだ。

 取引方法によってエリアが分かれている。トラック単位で売買したり、30sの里いも、20sのさやいんげん、50sのまこもだけなどが布袋単位で相対で取引されるかと思えば、大きなコンテナのような檻が一区画ずつ店のようになっていて、その中で農家の人などが好きなように梱包して売買したりもしていた。

檻が一区画ずつ店のようになっている
 白菜、じゃがいも、キャベツ、ヘチマ、きゅうり、トマト、すいか、カリフラワー、ピーマン、アスパラガス、マッシュルームなどのキノコ類…。日本のそれらよりかなり大きい品種も目立ち、巨大な大砲のような冬瓜を抱えている人も見かけた。2000万人の60%を扱うスケールを目の当たりにし、思ったよりはるかに自由な取引が行われている印象をもった。

 市場に名残を惜しみつつ後にし、夜は、超高層ビルが競い立つ浦東地区で上海の海鮮料理を堪能した。ここでは、上海料理も国際化の中で変わってきているというシェフの話を聞いた。伝統の素材・調理法は大事にしながら、盛りつけなどの外観、見た目の美味しさを世界に通じるものに変えていきたいとのこと。日本料理の美しさは勉強になるそうだ。

 同席の陸さんによると、元々中国では生野菜を食べない習慣だが、ネット社会になって若い人たちは世界各地から情報を得るようになり、サラダなどの生野菜志向が普及してきたと言う。それは、陸さんの仕事である野菜作りの現場にも大きく影響しつつあるようだ。

 伝統の食材の一つ、鴨の舌はほとんどの人が初体験だったのではないだろうか!

 この後、大急ぎで対岸に移り、上海の観光スポット「外灘(バンド)」で夜景をゆっくり鑑賞した。

(文責・脇ひでみ)

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