タイトル<野菜の学校>
● 2010年度「野菜の学校」 ●
- 2010年4月授業のレポート -
 今期は「日本の伝統野菜・地方野菜」をテーマに、毎月、一地方の、できるだけその時期の伝統野菜・地方野菜を数種取り上げます。授業は主に、「その地の専門家の講義」、「伝統野菜1種の他地方産やハイブリッド種などとの食べくらべ」、「野菜数種の生・加熱による試食」、「それぞれの野菜を生かした料理の試食」、「受講生の意見交換」で構成しています。


島らっきょう

開催日:

2010年4月3日(土)

会場:

東京都青果物商業協同組合会議室

テーマ:

沖縄の伝統野菜
「島らっきょう、野菜パパイヤ、フーチバー(よもぎ)、島にんじん、ナーベーラー(へちま)、ンジャナ(にがな)、ハンダマ(水前寺菜、金時草)、サクナ(長命草)、クワンソウ(萱草)、雲南百薬」

【講義】

「沖縄野菜の底力」

 沖縄の食・農へのアテンダント 高山厚子氏

 高山先生は沖縄出身の元小学校校長。現在は沖縄の食・農をテーマに、学校での授業、沖縄食材の料理研究、執筆・講演などでご活躍で、今回は沖縄の歴史・風土と沖縄野菜の関わり、沖縄野菜の特長についてお話しいただきました。

<講義より>
 沖縄は47都道府県中44番目の小さな県で、160の島で成り立っています。日本で唯一亜熱帯性気候のため、平均気温22℃、年間光量も多く、高温多湿の地、台風の通り道でもあります。

 かつて琉球国といわれた沖縄は、中国と関わりが深いという歴史があり、その影響を大きく受けていました。その後、東南アジア、日本との関わりを深め、第2次大戦後は米国統治、さらに1972年の本土復帰という苦難の歴史を経てきました。食も歴史の過程で変遷し、中国の賓客をもてなすために中国料理を学び、薩摩との関わりで薩摩の料理を学び、そのミックスされたものが沖縄の宮廷料理になったのです。

 沖縄は米国統治によって西洋の食材が蔓延するまでは、長寿県としても定評があり、独特の風土で育まれる沖縄の農産物は、健康野菜として注目されるようになりました。

 沖縄の伝統的農産物は「島野菜」といわれ、28品目あります。これらは県内で古くから伝統的に栽培されてきた農産物ですが、「島野菜」の定義は厳密には決まっていません。

 沖縄の伝統野菜の特長としては以下が挙げられます。

  • 抗酸化作用が強い…日本で一番紫外線が強く、海洋亜熱帯気候で海風の影響も大きい。また、珊瑚礁の大地であることから、野菜にミネラルが豊富。病気や老化を予防する抗酸化作用にもすぐれています。
  • 1000種以上の薬草がある…沖縄野菜は生薬や民間薬の中に入っていることも多く、日常の食事がまさに医食同源。特に、苦み、渋みを上手に生かすのが独特です。

 沖縄の食生活は、このような季節の島野菜をたっぷりいただくことと、昆布、豆腐を多用するのが伝統的で、それが健康・長寿につながった、とのお話でした。そして、後述の各野菜についての紹介がありました。

 当学校のスタッフである管理栄養士の松村眞由子氏からは、今回の授業に先立って沖縄に研修に訪れた際に聞いたこととして、沖縄の土壌の特殊性についての話が加えられました。

 沖縄の土壌は、南部は中性・アルカリ性、中部は粘土質、北部は酸性とまったく異なり、加えて多雨、台風の通り道、暑さといった自然条件のきびしさがある中で、土壌の改良をしつつ、作れるものを工夫してきたとのこと。地形上、ダムは造れないので、南部は地下ダムで水の供給が可能になっているそうです。

 

【食べくらべ】
※植物分類表記は、系統発生解析による新しいAPG分類体系に基づく。( )内は形態観察による旧分類体系

島らっきょうをベースに4種を生で評価

  • 島らっきょう<ネギ科>
  • らっきょう<ネギ科(旧ユリ科)・東京産>
  • のびる<ネギ科(旧ユリ科)・東京産>
  • エシャロット<ネギ科(旧ユリ科)・静岡JAトピア浜松>

 


食べくらべをした4種

 食べくらべのコーディネートは、農産物流通コンサルタントで当学校のスタッフでもある山本謙治氏。食べくらべ評価の原則として、「おいしい・まずい」の表現はタブーにし、各野菜の「甘さ」「苦さ」「うま味」などの指標を決め、評価を数字で書き込む訓練をしていくことが奨められました。

 らっきょうは80品種ほどあるが、「らくだ」種がポピュラーで、手間がかかっても泥つきのもののおいしさは格別とのこと。1kg 200円以下のらっきょうは、まず輸入物だそうです。

 各自で4種を食べくらべた後、5〜6人のグループに分かれて意見交換・発表がなされました。

<主な意見>
  • エシャロットはストレートなねぎの辛さ。のびるは食べてすぐは甘みがあるが、後から辛さが来て、野性味を感じる。島らっきょうは鼻に抜ける辛さがあるが、後からまろやかになる。
  • のびるはたまねぎに近い。エシャロットは食べ慣れているせいか好評。
  • のびるの野性味を好むかどうかで意見が分かれ、エシャロットが食べやすく、島らっきょうはその中間の位置づけ。
  • 辛みは、のびる<島らっきょう<らっきょう<エシャロットの順に強く、香りは逆の順に強く感じた。

 概して、島らっきょうは4種の中間の位置づけで、バランスのよい味わいとの声が続いた。また島らっきょうを加熱すると、マイルドな味わいでぬめりも感じられるとの感想も。

 山本氏から、官能評価では、甘さと辛さなど、味の正反対にあるものが得てしてマスキングされており、今後、舌をみがいていくとよい、とのアドバイスもありました。

 

【沖縄の伝統野菜とその料理】
 各野菜を生と加熱(ゆでる)で試食。さらに、それらを使った料理を味わいました。
◆ンジャナ(にがな) <ホソバワダン・キク科>
  元々は海岸べりに自生していたもので、今は野菜として栽培するようになった。代表的な薬草で、根は煎じて漢方として処方される。熱さまし、夏バテ防止に効果あり。
  「ンジャナの白あえ」は、生で苦かったものが調理によっておいしくなることに驚いた、との意見多数。

ンジャナ

生と加熱で試食

ンジャナの白あえ
◆島にんじん <セリ科>
 アジア原産の一年生植物。長根型は17世紀以前に中国から、短根型は明治初期にヨーロッパから入った。中城村で60年前から黄色い細長型の栽培が主流になった。

島にんじん

生と加熱で試食

島にんじんと沖縄にんじんのシリシリ
◆フーチバー <ヨモギ・キク科>
  日本や中国、東南アジアに分布する多年生野草。元々、野原に生育していたもの。苦み、渋みがあり、雑炊、みそ汁などに少しずつ入れて、香りを楽しむ。
 「フーチバージューシー(炊き込みご飯)」は、よもぎの香りに納得。雑炊もよく見かけます。

フーチバー

生と加熱で試食

フーチバージューシー(炊き込みご飯)
◆野菜パパイヤ <パパイヤ科>
 熱帯アメリカ原産の多年草果樹。17世紀に中国を経て沖縄へ。1年中、たくさんでき、白い液体が出るところから「おっぱい野菜」とも。花が咲くだけの雄木、丸い雌木、やや細長く良質の両生木がある。種がないのはハウス栽培。繊維質が多く、豚肉を一緒に調理すると脂をよく吸収してくれる。体を温める作用あり。
 「パパイヤシリシリ(いためもの)」は、スパムの香ばしさとこしょうが効いて美味。パパイヤはかぶのような味わい。

野菜パパイヤ

生と加熱で試食

パパイヤシリシリ
◆ナーベーラー <ヘチマ・ウリ科>
 江戸時代初期にインド・中国経由で沖縄へ。どこにでもたくさん生育し、ミネラルが豊富で肝臓によく、肥満予防にもよい。ゴーヤーと並ぶ夏の二大食物で、沖縄人にとっては命を救ってくれた野菜。皮は包丁でこそげるとよく、煮すぎると黒くなるので要注意。
 料理は、「ナーベーラーのみそいため」。ナーベーラーが新鮮だと、独特のクセが気にならないかも?! 島豆腐と合っておいしかった、と数人から感想あり。

ナーベーラー

生と加熱で試食

ナーベーラーのみそいため
◆ハンダマ <水前寺菜・キク科>
 熱帯アジア原産で、中国では三七草、台湾では紅鳳草、金沢では金時草と呼ぶ。ポリフェノールが豊富で、紫系と青系がある。香りがよく、特に女性に人気。
 料理は、「ハンダマのジーマーミー(ピーナッツ)ドレッシング」。いつもゆでてから調理していたのですが、生も新鮮で気に入りました!

ハンダマ

生と加熱で試食

ハンダマのジーマーミードレッシング
◆サクナ <長命草、ボタンボーフー・セリ科>
 フィリピンから関東地方にまで分布。元々は海岸沿いの岩場に自生していたものを、今は健康食材として主に与那国島で栽培。苦いが、根は粉にして解熱剤や咳止めに効果あり。

サクナ
◆クワンソウ <トキワカンゾウ、アキノワスレグサ・ユリ科>
 南西諸島から九州南部までに分布。昔からの薬草。煮てもいためてもコリコリとした食感があり、沖縄ではニンニクの芽よりポピュラー。中国料理にもよく使われ、蕾は高級食材として広がりつつある。根の付け根部分、花、茎も食材。

クワンソウ
◆雲南百薬 <アカザカズラ・ツルムラサキ科>
 中国ならぬ南米原産のつる性の多年草。緑のカーテンのように栽培でき、1年中収穫可。つるむらさきよりクセが少なく、生でもゆでても食べられ、ミネラルが豊富。根もむかごのよう。

雲南百薬
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