●「アスパラガスフォーラム2008」報告●
【開催日時】 2008年(平成20年)5月29日(木) 10:30〜17:00
【場所】 女子栄養大学 香川綾記念館
【主催】 NPO法人 野菜と文化のフォ−ラム、日本農園芸資材研究会
1 はじめに
 今日の野菜をめぐる状況は目まぐるしく変化している。生産・供給側では、生産者の高齢化、担い手の不足、原油高とそれに伴う石油関連諸資材の高騰、卸売市場の委託手数料の自由化など、さまざまな問題を抱えている。

 一方では、消費者側では、今年1月の中国製冷凍ギョーザ事件に端を発した中国野菜に対する不信感があらわになり、このことは、改めて生産者と消費者が情報を共有することの重要性を提起した。

  NPO法人 野菜と文化のフォーラム(以下「フォーラム」)と日本農園芸資材研究会の共催による「作物フォーラム」は、年1回開催しており、2002年のトマトから始まり、キャベツ、きゅうり、ピーマン、ほうれんそう、なすと続き今回の「アスパラガス」で7回目となった。

 「作物フォーラム」は、野菜の素晴らしさを見直して、美味しい野菜・安全な野菜を生産・流通させ消費するために、作り手・売り手・調理人・食べる側が一緒になって「文化としての野菜」を認識し「知って食べる」ことを趣旨としており、フォーラムでは中核的なイベントと位置づけている。

 当フォーラムは、加入会員(個人・法人)が農業研究機関・大学・種苗会社・調理研究家・市場関係者など多種多彩で、野菜をいろいろな切り口から語ることができる人たちが集まっている。野菜を「見て、触れて、食べる」いうことを大事にしていることから、この「作物フォーラム」は、次の流れで開催している。

 なお、4の産地・種苗会社からの特産品種や新品種の紹介では、実際に産地の野菜を「見て、触れて、食べる」ため、調理設備のある女子栄養大学に開設されたレストラン「松柏軒」で開催している。毎回、事前にフォーラムのメンバーと松柏軒の料理長とテーマ野菜の素材を生かした調理について検討し、「作物フォーラム」では、調理した料理の試食も行っている。

 また、フォーラムは、農林水産省の平成19年度知識集約型産業創造対策事業として「野菜の美味しさ検討委員会」を立ち上げている。

 野菜は、他の工業製品とは違って、鮮度が第一で、収穫してからも呼吸をしており生きた商材なので、品質の再現性に難点があるが、この「野菜の美味しさ検討委員会」では従来のビジネスに偏重した情報ではなく、各種のイベントを通じた食べ比べ・アンケートなどの結果を参考に、「美味しさ」について科学的知見を基に検討委員会の委員を中心に検討を進めている。(※「野菜のおいしさ検討委員会」のコーナー参照)

2 アスパラガスフォーラムの概要
 今年取り上げた、アスパラガスは、指定野菜14品目には入っていないが、近年、外国産野菜に押されている野菜の多い中、国産の力で跳ね返した数少ない作物である。

 比較的若年層に人気があり、疲労回復効果のあるアスパラギンなど優れた機能性をもつほか、最近はホワイトアスパラガスや紫アスパラガスの品種に人気が出始めており、注目する野菜といえる。

 今年の「作物フォーラム」は、「アスパラガスフォーラム2008」として、5月29日、東京都豊島区の女子栄養大学香川綾記念館において開催した。農林水産省、研究機関、JA関係者、種苗会社、市場関係者、生産者、調理研究家など110余名が参加し、需給の現状、品種動向と栄養価機能性、遮光栽培によるホワイトアスパラ栽培法に関する講演や、種苗会社のプレゼンテーション、調理研究家よる各種アスパラガスを使ったレシピの紹介、料理の試食会を行い、盛りだくさんな情報提供を行った。ここでは、その概要を紹介する。

@ 開会の挨拶
はじめにフォーラムの鈴木名誉理事長が、「野菜消費低迷の中で売り上げが堅調なアスパラガスについて、関係者が一堂に会して情報を共有することが大事なので、さらなる野菜消費の追い風になるような勉強会になることを願っている。」と述べた。

 続いて、日本農園芸資材研究会の中村会長が、「当研究会は資材開発や普及活動を会員メーカーと連携して行っている。昨今は食の安全、衛生に対しての世論の声が高まる一方、原油高の中、重油や肥料などの生産コストが上がり、農家の経営が厳しくなっており、農産物が適正な価格で販売されることを切望する。当会では、日本の施設園芸が発展するために当研究会も一翼となって活動を進めていく」との挨拶があった。

A 基調講演「今後の野菜政策とアスパラガスの需給の動向」
  最初に農林水産省生産局園芸課の菱沼流通加工対策室長から、野菜生産や価格動向など野菜を取り巻く状況、今後の野菜政策、また、アスパラガスの需給動向などについて次のとおり説明があった。

 最近、世界的な食料問題が連日報道をにぎわせているが、特に、中国製冷凍ギョーザ事件以降、中国からの野菜の入荷が激減している。国内の業務用野菜の海外依存は高く、とりわけ半分以上を占める中国産野菜を取り扱う業者からの敬遠は一般小売野菜にも大きく影響している。農林水産省では、食料自給率向上に向けた戦略的対応を強化し、野菜の生産拡大を進めていく。特に加工・業務用野菜のモデル産地形成を促進、新たな品目の追加も含め対応強化を図ることとしている。

 アスパラガスの需給動向については、国内の生産状況は横ばい状態が続いており、2006年度は28千トンで世界第7位である。国内の上位5県を挙げると北海道がトップで5,160トン、続いて長野県の4,450トン、佐賀県2,920トン、長崎県2,730トン、秋田県の1,820トンとなっている。北海道は冷涼な気候の利用、長野県は養蚕からの転作、佐賀県、長崎県は温暖な気候による長期どり栽培また熊本県のい草からの転作、秋田県は米からの転作によって産地を形成してきた。

 また施設促成、露地などさまざまな作型があるが、北海道や長野は広大な土地を利用した土地利用型、佐賀、長崎は施設を利用した集約型栽培を行っている。現在では2月から国産のアスパラガスが供給されるようになり、ほぼ周年で国産の新鮮なアスパラガスが入手できる現状などを述べた。

B アスパラガスの品種動向と栄養価・機能性について
  長野県野菜花き試験場の酒井野菜研究部員が、アスパラガスの国内における育成品種、寒冷地の露地春どり長野県育成品種「どっとデルチェ」、ホワイトアスパラガスの栽培方法、糖度が高く柔らかい食感の紫アスパラガスについて紹介した。

 また、栄養面ではタンパク質やビタミンB・E、亜鉛、銅などが豊富であること、疲労回復のアスパラギンや、動脈硬化や高血圧予防等のルチン、あるいは抗腫瘍作用のサポニンが多く含まれた機能性野菜であることを説明したうえで、これらを統合して考えると各産地に適した品種選定と栽培を行い、栄養価・機能性を消費者にアピールし、「生産者から消費者までアスパラで元気に」を合い言葉に国産アスパラガスの安定生産、安定供給につなげていきたいと述べた。

C 栽培法等の紹介
 東罐興産株式会社開発部の植野氏が、遮光栽培によるホワイトアスパラ栽培法について、東北・北海道の栽培事例を元に説明した。同社の遮光資材「ホワイトシルバー」は、室温が上昇しにくいこと、高遮光フィルムで真っ白で太いアスパラガスが出来、立ち姿勢で収穫が可能であるなどの特徴があると説明があった。

 同氏によると、かつては、アスパラガスといえば白くて缶詰になったものを思い浮かべる人が多かったが、現在、国内においてはホワイトアスパラガスは1割にも満たない生産量である。しかし生食用としてイタリア、フランス料理店、あるいはデパートの食品売り場を中心に需要が出てきているとのことである。

 話題提供として松下電工株式会社の岡村氏より、アスパラガス栽培における重要害虫のハスモンヨトウ防除に有効な黄色蛍光灯の商品説明があった。

 また、株式会社サカタのタネ、パイオニア エコサイエンス株式会社、渡辺農事株式会社、シンジェンタシード株式会社、北海道ホワイトアスパラガスクラスター協議会の各担当者から品種についてプレゼンテーションがあり、定番あるいは人気品種、ホワイトアスパラガスや紫アスパラガスなどの品種の紹介がった。

 北海道ホワイトアスパラガスクラスター協議会の前田委員(北海道大学大学院)によると、道内の産地に働きかけ北海道の名産品として道をあげてホワイトアスパラガスの振興を行っており、真冬から初夏まで出荷できるようになった。土寄せ栽培もハウス遮光栽培もそれぞれ美味しいホワイトアスパラガスができ、グリーンとは違った味わいがあり、他の野菜との組み合わせの色合いもよいので是非多くの皆さんに食べていただきたいと熱っぽいメッセージがあった。

 出席者から、紫アスパラガスは、表皮に紫色の色素(アントシアニン)が多く含まれ、糖度が高く食感が柔らかい。加熱調理すると退色して濃い緑色になる。試食すると確かにグリーンアスパラよりも甘味を感じるし、太い若茎なので柔らかいから子供や高齢者に喜ばれるのではないだろうかという意見もあった。

D アスパラガス料理の紹介
  このあと料理研究家(上原氏、宮本氏、村岡氏)が考案したグリーン・ホワイト・紫それぞれのアスパラガス料理の紹介と、アスパラガスの料理方法の仕方についてのコメントがあった。

 上原氏によると紫アスパラガスは、加熱すると濃い緑色に変色するが、甘みは強いので調理の工夫により美味しい食材になるのではないか。宮本氏からは、フランスのホワイトに比べ国産のものは苦味(えぐみ)が足りない。料理店ではヨーロッパ産を使用していて、その理由は適度に渋みがあるからだそうである。国内産は甘さ重視で渋みが少ないから使わないとのことなので、外食店向けにはその辺を考慮した品種選択をしなければいけないのではないかとコメントした。村岡氏からは薬膳師の立場から野菜の摂取の重要性と、身体に良い旬の野菜を季節に合わせ組み合わせることにより血行がよくなり健康が保たれるので、野菜を食べることそのものに薬膳効果があると紹介された。

 料理研究家の荒井氏からは、アスパラガス料理の講評として、野菜の美味しい食べ方は、まず作っている農家の食べ方に大きなヒントがあるとの指摘で、当日参加されていたJA南会津の星氏から、地域での味噌汁の具、天ぷら、焼き浸しにゆでて辛し醤油で食べるなどのアスパラガス料理が紹介された。

3 さいごに
 出席者からは、「紫とグリーンのアスパラガスが、スーパーで同じ場所で並べて売られているケースもあるが、紫はグリーンに比べて高いので、売り方に工夫をすべきだ」という意見と「料理店の関係者は、国産のホワイトアスパラガスの生産者を知らないので、生産者側は、もっと実需者にアピールする必要がある。国産をほしがる実需者はいるはずだ」という意見があった。

 会場では出展種苗会社、産地からのグリーン・ホワイト・紫アスパラガスの展示と試食がされた。また、3名の料理研究家のレシピによる料理の試食などアスパラガスずくめの一日となった。


会場の試食会の様子

NPO法人 野菜と文化のフォーラム 理事 川口和雄
(日本農園芸資材研究会 事務局長)
出典:「野菜情報」2008年7月号
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