●「有名野菜品種特性研究会(サトイモ)」報告●
担当理事  吉岡 宏
【講演要旨】
  1)世界のタロイモ  −種の多様性と利用について−
 
東京農業大学 学術情報課程 博物館情報学分野
 
教授 小西 達夫 氏

 1970年代恩師の影響もあり、地球人口の増加に伴う食料資源の枯渇を憂い、食料としての有用遺伝資源確保に興味を持ち、タロイモの研究に携わってきた。

 タロイモ(サトイモ(Colocasia esculenta)はイネより古い栽培作物の一つとして知られる。熱帯圏から環太平洋諸島、日本、中国、東南アジア、インド、地中海地域(キプロス島)、アフリカ、アメリカ大陸、西インド諸島まで広く栽培され、特に根菜農耕民族を支える伝統的な主要作物で、各地に独特な品種、多種多様な品種が分化し、食用ばかりでなく薬用や儀礼や神への供物などとして深く関わっている。


小西 達夫 氏
 現在、地球上に30万種の植物があり、人類の歴史とともに食料や香辛料、薬料、衣料、染料、建築材料、燃料、観賞植物として利用しているのは数万種で、食用に利用されるのは約1万種で、作物として栽培されるのは約2,500種にすぎない。そのうちイモなどの栄養器官を採集、栽培し利用してきた植物は約1,000種で、さらに食用作物となると世界でわずか169種、日本では16種にすぎない(星川)。
■「イモ」という概念
 地下にデンプンを貯蔵して木質化せずに、比較的簡単に食用になるものを総称して「イモ」といわれる。タロイモ(=サトイモ(サトイモ科サトイモ属))やジャガイモ(ナス科ナス属)は茎が肥大したもの、サツマイモ(ヒルガオ科サツマイモ属)は根が肥大したものを利用している。イモ類は多年草で次世代のために地下に養分を貯めている植物である。

 山に生えるヤマイモ(ヤマノイモ科ヤマノイモ属)に対して、里に生えている意味からサトイモ、ほかにイエツキイモ(家芋)、ハタイモ、タイモなどの名称がある。
■タロ(Taro)とは
 ポリネシア語のイモを意味し、葉や地下茎などの外観上の形態が酷似する。サトイモ科(Araceae)にはColocasla(サトイモ属), Xanthosoma(ヤバネサトイモ属/南米) ,Alocasia(クワズイモ属/観賞用), Cyrtosperma(キルトスベルマ属/パラオ諸島・ミズズイキ)が含まれ、いずれも利用され、通称名が混乱している。

 太平洋諸島で利用されているサトイモ科の食用植物の草丈は、サトイモやアメリカサトイモは1,5〜1,7m、インドクワズイモ4,5m、キルトスペルマ(ミズズイキ)6m以上と多様である。
■タロイモの原産地〜日本への伝播
 De Candolle(1883)はインド、スリランカ、スマトラ、マレー半島、一方 Vavilov(1935)はインドとそれらに隣接する中国が原産地としている。(諸説あり・確定されていない)

 タロ芋の日本への伝播は縄文後期〜弥生時代初期の頃から、太平洋諸島や中国から渡来し、イネが渡来する以前に伝えられたといわれる。エグ味の少ない品種が淘汰され、最初は主食として利用されてきたタロイモは、アジアほか日本ではイネ文化の広がりとともに野菜としての利用に変化した。ニューギニアほか熱帯では現在もタロイモ類が、アンデスではジャガイモが主食にとり替わった。
■古来から食べられてきたサトイモ、品種に関する研究
 サトイモが古くから大事なイモとして食べられたことは、今でも祭りや、月見、正月などに神様に供物として供え、必ず食べられてきたことからもわかる。

 中国では「史記」(B.C.100〜200)、および「斉民要術」(A.D.560頃)には15品種が記載。唐芋や八つ頭など、現在、日本で栽培されている品種も散見され、エチオピア西南部高地農耕民マロが栽培しているタロにも基本的な塊茎の3タイプがあり、すでにこの頃に品種が成立したことを示唆している(熊沢1954、飛高1976、星川1980)。また、熊沢ら(1954)は日本の品種について地上部、地下部・花器の形質、芽条変異、染色体などから15品種群、36代表品種に分類した。一方ハワイの栽培品種についてLeo D Whitneyら(1939)は地上部・地下部および花器の形質の特徴から84品種に整理し解説した。パプアニューギニアのタロの品種については久木村ら(1984)、佐藤ら(1988 a,b)等の調査があるが、いずれにしても品種に関する研究は少ない。園芸学会雑誌25巻第1号に日本のサトイモの原型の記載がある。今日では主に16品種程度しか利用されていない。
■多様性に富む食文化と生育特性 食品加工資源として、薬膳への可能性
 サトイモは地域や農耕の違いから、食の多様性を生み出し、ゆでる、焼く、砕く、発酵、乾燥、粉などの様々な利用法がある。デンプン粒が細かく、甘みが少なく、粘りがあり、(つるりとして)喉ごしが良く、また食味が淡泊なことから、味付けが容易で低カロリーで食べ続けても飽きのこない食材である。栽培面では田〜畑、早生〜晩生、耐寒・耐乾・耐暑性の強弱、と地域適応性に富み、自然環境下で品種特性の選抜利用が試みられ、熱帯原産ながら日本では東北地方にまで品種分化したと思われる。

 イモ粉、おかし(プリン、ケーキ、クッキー、アイスクリームなど)、ベビーフード、老人食、インスタント食品などへの利用、今後の食糧不足に自給できる資源としても期待される。熱帯では茎を刈り取り芋を収穫後、茎を挿し木すれば容易に繁殖でき、数品種を挿し木で周年栽培・利用しているらしい。
■おわりに
 サトイモは地域によりとても重要で、伝統的な歴史とともに人類と深く関わってきた。人類の共通の財産として次の世代に伝えていかなければならないと思う。
(文責 事務局 真柄 佐弘)
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