●特別講演会「50℃洗いで広がる野菜の可能性」報告●
【平山一政氏講演】
<平山一政氏ご紹介>
「50℃洗い」が数々のメディアで話題を呼び、今や時の人となって超多忙を究めている。元々は蒸気エンジニアリングを専門とする英国企業の技術職で、その後早稲田大学社会システム工学研究所・食と地域環境研究室室長・客員研究員を経て、現在はスチーミング調理技術研究会代表。蒸気利用技術から加熱調理に目を向け、食材を無駄なくよりおいしく食べるための提案・講座を全国各地で開いている。
  「"50℃洗い"から広がる大きな可能性」
 
平山一政氏
●突如、メディアで大ブレーク!

 2012年にNHKには5回ほど出演しましたが、"50℃洗い"がこんなにもち上げられるとは! NHKを見たフジTVが2月に取り上げて、一気に広く知られるようになりました。

 見つけ出して10年ほどになりますが、メディアには相手にされず、私が講習会を開いているおばちゃん達に披露して、その驚く様に勇気をもらいながら続けてきたようなものです。


平山一政氏
 そろそろ仕事をやめるつもりで小冊子を作り、それをあちこちに配っておしまいにしようと思っていたのですが。このブレークを最後のご奉公と思い直し、楽しみながら取り組んでいるこの頃です。
 
●"50℃洗い"発見までの経緯

 なぜ、50℃に取り組んだかを、まずお話ししましょう。

 大学で日本の食問題を考えることになった際、野菜の摂取量を見ると、日本はアメリカより少なく、韓国や中国は日本の倍以上も食べていることがわかりました。では、どうやって食べる量を増やすかという現状の施策を見ると、国も県も、生産や分析などにはお金を使っているが、おいしく食べるためにはまったく使っていないのです。これはおかしい! 野菜をおいしく食べる側から追いかけてみようと思いました。

 私は蒸気が専門なので、加熱調理の仕方に疑問がわきました。うま味を閉じこめて熱を通すには蒸気がベスト。蒸し料理ではなく、低温スチームで、調理加工前に素材を最もよい状態にしておいてから加工したほうがよいのでは? 今の料理方法はおかしいのでは? でも、食べものは保守的な世界だともわかりました。

 野菜を熱湯でゆでて冷水にとると、うま味も逃げます。うま味を残してアクだけを取る方法はないか? 調理業界はゆでることしかやっていないし、それが世界標準なのです。

 しかし、煮るよりも蒸すほうがよいし、蒸すことにおいて、日本の技術は世界の最先端を行っています。

 蒸す温度を下げていくと、アクが取れていって、きれいに、おいしくなる。ほうれんそうで試して、うま味が残り、アクが消える温度帯があることがわかりました。色よく、シャキシャキして、甘くなる。60℃まで下げると、日持ちがよく、2週間後もシャキシャキしています。蒸す方法を広げてみたい、でももっと手軽な方法はないかとも。

 一方、葉の先にある汚れが水洗いでも取れず、気になっていました。

 蒸す温度を下げていき、50℃近くになると、シナッとしていたほうれんそうが逆に起きあがり、蒸気の中で元気になる様子が見えたのです。面白い温度帯だなと思いました。そして、蒸すのではなく、この温度帯で洗ってみてはと思いつきました。これには、別府温泉で育った幼い頃の私の経験が甦りました。「50℃で蒸すのなら、50℃で洗ってもよいはず」。50℃で洗うと、葉の先の汚れもきれいに取れ、食べると、アクやエグミもなくなり、おいしくなっていました。

 他人には言いませんでしたが、これは、蒸気が専門の私にとってはおもしろくない事態でもありました(笑)。

 

●ギリギリ、何度までが生(なま)なのか?

 さて、では「生(なま)」とは何度までを指すのでしょうか? 何度から「火が通った」と言えるのでしょうか?

 私は、世界中の文献や情報を、探しに探しました。でも世界的に見ても、これに対する研究は進んでいないのです。

 私が取り組んで、個体差はあるものの、50〜60℃にあるらしい。53〜57℃という微妙な温度が、野菜や食べもののうま味を逃さないようなのです。

 野菜は、収穫後も細胞は生きています。では、細胞死とは? 医学でも生理学でも、どうもはっきりしていない。細胞膜が壊れて機能を失わない間は、大事な成分が外に出ません。それが50℃近辺なのです。

 世界中で、50℃を掲げている例はありません。食の世界だけでなく、生体学としても大きな意味をもってくるのではと、私は考えています。

 熱の世界はおもしろいもので、大事なことはまだまだあります。

 50℃に野菜を浸けると、温度が下がります。それも大事な要素。また、大葉やハーブなどは、その時はいいが、2〜3日すると細胞膜が死んで黒い斑点が出ます。だから、これらは少し温度を下げてやるといいなど、細かい注意まではなかなかカバーできないので、応用を利かせてもらいたいと願っています。

 "50℃洗い"で、雑菌は死にません。検査では、菌は全体の1/15〜1/10程度はなくなっているけれども、安全の保証はできないし、また、保証はしてません。"50℃洗い"の利点は、ヒートショックで食材が身を守るためのプロテインが生まれたり、ペクチンが細分化して歯切れがよくなることは考えられますが、最大の目的は「おいしくする」ことです。

 

●"50℃洗い"にアンチエイジング効果?!

 私は関西で、もう27〜28回、おばちゃんたちを相手に講習会を開いています。いつも同じメンバーです。彼女たちは、この"50℃洗い"を取り入れた食事をすることで、老け方が変わったと言います。シワの数が減ったり、いわゆるアンチエイジング効果があるそうです。また、子どもや孫が野菜嫌いだったのが、食べるようになったとも。

 栽培にも応用できるのではと思い、土を蒸してみました。すると、カビが消え、色が黒々と変わりました。蒸気は熱伝導がよいのですが、70℃より下がると湯のほうが効率がよくなります。

 植木鉢に60℃の湯をかけると、少し弱りました。花芽に50℃の湯を散布すると、元気になりました。アブラ虫がわいたバラに55℃の湯をまくと、虫の半分は落ち、花芽は何ともない様子。翌日、残っていた虫が白くなって落ちていました。

 こうした経過から、農業栽培にも可能性があるのではと考えます。

 

●樹上の完熟トマトが"50℃洗い"で流通可能に

 では、"50℃洗い"をどの段階で行うとよいのでしょうか?

 買ってきた直後に洗うと、おいしい状態で長持ちするし、冷蔵庫に雑菌を持ち込まないメリットがあります。

 スーパーマーケットが、仕入れた段階でやると、きれいなまま3倍長持ちします。果物や花も同様です。

 生産地で行うと、もっと効果があります。一般に樹上で完熟したトマトは流通に乗りませんが、農家に依頼して、そのままのものと"50℃洗い"したものを同じ条件で送ってもらいました。翌日届いたトマトは、"50℃洗い"したものは10日間、問題なくもちました。

 これは大変大きな意味をもつのでは?

 樹上で熟したものが流通するのですから、消費者とってはうれしいことです。農業も流通も変わる可能性があります。ぜひ、国家単位で研究してもらいたいのです。

 

●「おいしく食べるために」から見えてきた新しい世界

 この他、データがまだない段階ですが、とんでもないことが起きる予感があります。

 食べものも人間も、生きものという意味では同じです。そこで、50℃健康法といったものの可能性もあるのです。一例として、水虫が消えた例があります。50℃の湯に、水虫のある足を3秒間浸けては出し、それを4〜5回繰り返します。毎朝、これを続けると、水虫が消えました。

 大根を50℃の湯に浸けたまま30分ほど忘れてしまったことがありました。かまわず、大根おろしにしたら、辛みは少なくなりますが、これがおいしい! しかも1週間以上もちました。

 たまねぎは、50℃に浸けると、新たまねぎのようなフレッシュな味に。バナナは樹上で熟した味わいになります。

 こうしたことは、まだ始まったばかりで、一度知ると、後戻りはできないものです。時間が経てば外国に広がります。現に、外国のほうが関心をもち、ある国では新聞の一面に載るなど、乗っ取られそうな勢いです。

 食べることから始まった研究ですが、栽培にまで広がり、生理学や健康法等々、新しい世界が見えます。しかし、調理学会や研究関係からのリアクションはありません。もうとっくに知っているということなのか、そんなバカな、ということなのか。

 先ほどの大根おろしを、一流の板前さんやシェフの方々に味わってもらう機会がありました。結果、「これはダメ。これまで通りに」と「新しい料理ができる」と、二派に分かれました。そういうものだと思います。

 私自身は、関西のおばちゃんたちが体験している体の変化、子どもたちが喜んで食べる現実を目の当たりにして、何かがきっかけになるという確信をもちつつ、楽しみながらやっていこうと思います。

(文責 脇ひでみ 理事)
>>> このレポートの目次へ
>>> フォーラムのトップへ