タイトル<野菜の学校>
● 2010年度「野菜の学校」 ●
- 2010年10月授業のレポート -


飛騨伝統野菜各種

 今期は「日本の伝統野菜・地方野菜」をテーマに、毎月、一地方の、できるだけその時期の伝統野菜・地方野菜を数種取り上げます。授業は主に、「その地の専門家の講義」、「伝統野菜1種の他地方産やハイブリッド種などとの食べくらべ」、「野菜数種の生・加熱による試食」、「それぞれの野菜を生かした料理の試食」、「受講生の意見交換」で構成しています。

開催日:

2010年10月2日(土)

会場:

東京都青果物商業協同組合会議室

テーマ:

飛騨伝統野菜
「宿儺かぼちゃ、あきしまささげ、飛騨一本ねぎ、なつめ、飛騨紅かぶ(浅漬け)、アブラエ(えごま)、高原山椒」

 今月の飛騨伝統野菜については、早くから力を入れている高山市公設地方卸売市場「高山水産青果(株)」が中心となって、市や県のご協力のもと、熱心に取り組んでいただきました。
【講義】
 飛騨伝統野菜全般については、岐阜県飛騨農林事務所農業普及課の中西文信氏、宿儺かぼちゃについては、丹生川宿儺かぼちゃ研究会会長の若林定夫氏にお話しいただきました。

「飛騨ではこんなものを食べています」

岐阜県飛騨農林事務所農業普及課 中西文信氏

<講義より>
 飛騨は岐阜県の北部、山間部に位置し、その中心、3000m級の乗鞍岳を越えた先が高山市になります。

 伝統野菜・地方野菜が注目されるようになった昨今、岐阜県では平成14年から、生産性・収益性だけではなくなってしまう貴重な野菜を掘り起こし、飛騨・美濃伝統野菜として認証制度を設けました。条件は以下の3点。

中西文信氏

1.主に県内で栽培
2.岐阜の気候風土に合ったもの
3.昭和20年以前から栽培され、地域に定着しているもの

 認証されたものはマークを付けて販売することができます。

 現27品目が認証されており、その内飛騨伝統野菜は7品目、産地は高山市、飛騨市、白川村の2市1村が中心です。

☆   ☆   ☆

■中西氏からは、当日取り上げていた伝統野菜「飛騨一本ねぎ、あきしまささげ、飛騨紅かぶ、高原山椒、アブラエ(えごま)、なつめ」の他、折り菜(茎立菜)、アズキナ(ナンテンハギ)についての紹介がありました(後述)。

☆   ☆   ☆

「宿儺かぼちゃ、只今売り出し中」

丹生川宿儺かぼちゃ研究会会長 若林定夫氏

 若林氏は、元々はほうれんそうを主とした岐阜県飛騨美濃特産名人であり、岐阜県指導農業士。宿儺かぼちゃはいわば農家の楽しみとして、生産から広報・販売までを当初から担われ、2007年からは株式会社宿儺さまの代表取締役としても活躍なさっています。

<講義より>
 私は生まれ故郷を、ひいては日本国土を守りながら農業にいそしんできた者です。


若林定夫氏


 飛騨高山は陸の孤島といわれる山奥にありながら、年間420万人もの観光客が訪れてくれる地で、すばらしい食材がたくさんあります。特に夏のほうれんそうは、全国出荷量の8割以上を占めるほどです。

 宿儺かぼちゃは、30年以上前から地元で作られており、特に名前はなく、「あのかぼちゃ」「長いかぼちゃ」と言えば通じていたくらい、ごく普通のものでした。一説には、新潟から杜氏として来ていた人が種を持ち込んだとか。味がいいから、種を採って交配させているうちにだんだん丸くなってきていました。でも、味は長いときと変わりません。

 そこで、長いかぼちゃの純系を作ってみようと、仲間4人で、いわば農家の楽しみとして始めたのがそもそもの始まりでした。売値が1本200円では楽しみにならないので、500円かぼちゃにしようと、これも初めから決めており、軌道に乗りました。おかげで、参加者が1年目でドッと増え、組合員は現在200人にのぼっています。

 飛騨は、乗鞍、穂高、白山と3000m級の山々に囲まれ、標高差が400〜800mと大変大きくて、1日の温度差は13℃以上にもなります。こんな所で栽培しているのは日本で飛騨だけ。この気候風土が、宿儺かぼちゃの糖度の高さや、きめ細かな果肉に影響しているのだろうと考えています。

 北海道のかぼちゃと比較すると、細胞壁が薄いので腐りやすいという欠点はあるものの、その分口当たりがなめらかな利点があることがわかりました。

 宿儺かぼちゃは8月初め〜10月半ばまでが出荷時期ですが、残りの期間にも「宿儺」という名前が街にあるようにしたいと、「宿儺焼酎」も作ったりしています。

 おいしいかぼちゃなので、もっと売りたいと、3年前から農林水産省の地域ブランド化事業支援を受けながら、いろいろな試みを行っています。料理人に協力してもらい、レシピ付きで販売したり、粉末やペーストに加工して業者が使いやすくしたり。地元の料理人と協力し合って試食会を開いたり、首都圏に出向いてイベントも行いました。

 とはいえ、飛騨から出向くのは大変ですし、この高山を理解してもらうためにも、高山に来ていただきたいと考えるようになりました。そこで、部落の祭りとセットした「宿儺かぼちゃフェア」として、民家で飲食したり、神社に参ったり、舞の見学などを組み合わせた催しも行っています。

 宿儺かぼちゃは農家の楽しみだけでなく、大きな挑戦でもあります。皆さんに、ぜひ高山に来て味わっていただきたいと願っています。

☆   ☆   ☆

●東京青果(株)の澤田勇治氏から、東京市場のかぼちゃの動向について話がありました。
 かぼちゃには日本種と西洋種があります。昭和30年代までは日本種が出回っていましたが、現在は90%以上が西洋種。これには、食の洋風化などの日本人の嗜好の変化が関係しており、ベチャベチャした日本かぼちゃより油脂に合う西洋かぼちゃのほうが好まれる傾向があります。現在11月以降は、メキシコ産、ニュージーランド産などの外国産が出回るとのことでした。

●スタッフである管理栄養士の松村眞由子さんは、岐阜県中津川市出身。同じ岐阜県でも食環境が本当に違い、知らないことも多かったそうです。かぼちゃはビタミンA・Cともに豊富で、これからの季節は風邪予防にもお薦め。飛騨野菜で有名な赤かぶは中まで真っ赤なのが特長で、塩漬けだけで乳酸発酵後に酸味が出たものが美味とのこと。成分は普通の白いかぶとほとんど変わりません。
 また飛騨高山はエゴマをよく使いますが、五平餅にも使われ、信州のくるみ・ごまを主にするのと比較すると面白いとの話もありました。

【食べくらべ】

 「宿儺かぼちゃ」と「西洋かぼちゃ(北海道産「九重栗」)」と「日本かぼちゃ(宮崎産「小菊」)」を「マッシュ」「オーブン焼き」で食べくらべました。



 
九重栗、小菊、宿儺かぼちゃの食べくらべ
 食べくらべは、もちろん、「おいしい・まずい」の表現はタブーです。各自で食べくらべ、「見た目」「食感」「香り」「風味」+「各自が決める指標」の5つの指標それぞれに評価をし、五角形のグラフに記してから、6〜7人のグループ単位で意見交換・発表がなされました。

<主な意見〜宿儺かぼちゃ>

  • 和と洋の中間的存在
  • 甘みが西洋かぼちゃより、少し強い
  • 切りやすい
  • しっとりとして上品な甘さ
  • 香りが強い
  • 上品な甘さ
  • 輪切りにして売ってほしい

宿儺かぼちゃ

<主な意見〜西洋かぼちゃ(九重栗)>

  • ホクホク感が強い
  • 粉質過ぎて、のどにつまる感じ
  • 一般的な味
  • 食べ慣れた味

九重栗

<主な意見〜和かぼちゃ(小菊)>

  • 若すぎるのではないか
  • ゴリゴリした食感
  • 水っぽい
  • 比べることができない、別物
  • 慣れてない味
  • 青臭い
  • ウリっぽい
  • あっさりした甘さ
  • 長岡野菜で体験したゆうごうのようにとろみをつけて調理してはどうか

小菊
<主な意見〜その他>
  • 好きなかぼちゃのどちらが好きかを話したところ、宿儺(3人)と西洋(3人)が半々だった
  • 指標5を「スイーツの可能性」にした。宿儺かぼちゃはタルトのアパレイユに、西洋かぼちゃは焼いたカリカリ感をいかしてはどうか
【当日の飛騨野菜とその料理】
※植物分類表記は、系統発生解析による新しいAPG分類体系に基づく。

◆宿儺かぼちゃ <ウリ科 カボチャ属>
 かぼちゃは南北アメリカ大陸原産。かぼちゃの名はポルトガル語由来で、通説として「カンボジア」を意味する語Cambojaから。
 宿儺かぼちゃは、長年、高山市丹生川町内で自家用に栽培されていたものを平成13年「宿儺かぼちゃ」と命名された。ヘチマのような形で、長さは約50cm、重さは2.5kg前後から大きなものは5kgほどにもなる。淡い緑色のなめならかな肌に濃い緑色の斑模様が入る。果肉は鮮やかな黄色で、口当たりがなめらか、栗のような甘さとホクホク感がある。カロテンが豊富で、ビタミンC、Eも多い。
 宿儺かぼちゃはホクホク感を生かして、煮ものの他、サラダにも。甘さと口当たりのなめらかさを生かしてケーキやスープにも向く。
※「宿儺」の名は、『日本書紀』に登場する農耕文化を広げた「宿儺」という豪族に因んで、若林さんたちがつけたものだそう。宿儺は朝廷に背き、飛騨大鍾乳洞に追い込まれて討伐されたという言い伝えがあり、円空作両面宿儺像が残っています。


宿儺かぼちゃ

宿儺かぼちゃの断面

宿儺かぼちゃの田舎煮

◆あきしまささげ <マメ科>
 「ささげ」はいんげん豆のことで、地方によりささげとも呼ばれる。
 古くから7月上旬(土用)頃から収穫できるため「土用ささげ」の名で栽培されてきた在来種。秋になって気温が低下するとともに莢の表面に紫色の美しい縞模様が現れることからこの名で呼ばれるようになった。旧丹生川村が栽培の中心で、2002年度に伝統野菜に認証された。
 あきしまささげの莢表面の紫色はアントシアニン系色素、及びルチンを含んでいる。ゆでるときれいな緑色に変わるため「湯上がり美人」という名もある。
 食べ方はゆでてごまあえ、サラダに、煮もの、天ぷら、いためものにも。飛騨ではアブラエというエゴマを使ったアブラエあえが有名。`また、豆が大きくなったところを煮しめて食べるのが地元の食べ方だそう。


あきしまささげ

ゆでたあきしまささげ

あきしまささげのアブラエあえ

◆飛騨紅かぶ <アブラナ科>
 かぶはアフガニスタン原産のアジア系と、中近東から地中海沿岸原産のヨーロッパ系に分かれる。
 飛騨紅かぶはヨーロッパ系に属し、扁平で大型、果肉はとても緻密でしっとりした食感が特長。旧高山市丹生川村を中心に栽培されている。丹生川村は古くは八賀郷と呼ばれ、赤紫色の丸かぶ「八賀かぶ」が作られていた。1918年に八賀かぶの突然変異による紅色のかぶが発見され、その中から丸く色鮮やかなものを選抜したのが「飛騨紅かぶ」。2002年度に伝統野菜として認証された。
 赤かぶの栄養成分は、見た目ほど白いかぶと大差はない。実は消化酵素のアミラーゼを含むもののほとんどは水分、葉はカロテン、ビタミンC・K、鉄、カルシウムなどを豊富に含む緑黄色野菜である。
 赤かぶは外側は赤色だが、中は白。その色合いを生かして浅漬けなどで食べるが、時間をかけて漬けたり、酢漬けにすると中まできれいなピンク色に染まる。飛騨で有名な「赤かぶの漬けもの」は長期熟成させたもので、酸味と味わいに深みがあるのが特徴。


飛騨紅かぶ

飛騨紅かぶ

飛騨紅かぶの浅漬け

◆飛騨一本ねぎ <ネギ科>
 ねぎは中国西部またはシベリア原産とされ、中国で葉ねぎと太ねぎに分化したといわれる。
 飛騨一本ねぎは、古くは夏ねぎとして北陸路を経て飛騨に土着したといわれる。他のねぎに比べて休眠が深く、寒さによって甘みが強く、やわらかくなる。飛騨では、労をねぎらうという意味や他では売っていないこともあり、昔から、嫁いでいる娘やよそへ行っている者に送る習慣がある。2002年度に伝統野菜として認証された。
 根深ねぎは炭水化物、糖質、食物繊維を含み、加熱すると甘く感じる。ねぎの香りと辛みは硫化アリルによるもの。硫化アリルは食欲増進、ビタミンB1の吸収をよくするなどの働きがある。また新陳代謝を活発にし、疲労回復や神経の鎮静化、血液サラサラ効果なども期待できる。
 飛騨一本ねぎは甘みがあるので、すき焼きや鍋物、ほうば味噌焼き、一本焼きなど、加熱して食べるのがすすめられる。


飛騨一本ねぎ

飛騨一本ねぎのグリル焼き

◆なつめ <クロウメモドキ科>
 原産は中国北部。発芽が遅く、夏に芽を出すから「夏芽」と呼ばれる。日本では果実生産はなく、庭木として植えられている程度だが、中国・台湾ではポピュラーな果物である。
 飛騨のなつめの由来は、7世紀末の壬申の乱で新羅の僧「行心」が大津皇子の謀反に与し、飛騨の伽藍に流刑された際にもたらされたともされ、奈良を思う真情から「奈都女」とも。
 なつめの実を乾燥させたものは大棗といって、強壮・鎮静作用があるとされ、葛根湯などの漢方薬に配合されている。
 表面は暗紅色で臭いはほとんどなく、サクサクした食感で甘酸っぱい。生食用には熟れた実のほうがおいしいが、加工用には若い実のほうが煮くずれしにくい。一般には加工品や乾燥させて漢方薬の原料にするが、飛騨地方では生食でも食べられている。
 干しなつめは煎じて飲んだり、果実酒に利用される。
※中西氏によると、子どもの頃は木からもいでそのまま青りんごのような味を楽しんだとか。熟して赤くなったものを好む人も。飛騨では甘露煮にしてお茶請けにするとのこと。また、花粉症に効果があるとの情報が5年周期くらいで広まっては、その時期、大忙しになるという話もありました。


なつめ(生)

なつめの甘露煮(瓶詰め加工品)

なつめの甘露煮

◆えごま(アブラエ) <シソ科>
 東南アジア原産。食用、油をとるために栽培されており、日本ではごまより古い歴史があるといわれる。菜種油が普及する前はえごま油が一般的で、灯火にも用いられていた。
「アブラエ」という呼び方は、飛騨や長野県南部、福島、埼玉、石川、山梨各県の一部で使われている。東北地方では「ジュウネン」「ジュウネ」といった呼び方もあり、これはえごまを食べると「10年長生きする」「10年若返る」という意味があるという。
 えごまの脂質には中性脂肪の低下、血栓生成防止、動脈硬化予防などの働きがあるといわれている。特有の香りがあるので、好き嫌いが分かれる。韓国では特に好まれ、キムチ、チゲなどには欠かせない食材である。
 ごまと同様にすってごまあえにしたり、クッキーやパンなどにも。飛騨では、すりつぶして味噌を加えたアブラエ味噌としてよく使われたり、きな粉のようにまぶしたり、五平餅のたれにも利用される。


アブラエ

すったアブラエ

ころいものアブラエあえ

◆高原山椒 <ミカン科サンショウ属>
 若芽は「木の芽」。和名を「ハジカミ」と言い、食べると「顔をしかめる」ところから来ているらしい。
 飛騨地方の山椒栽培の歴史は古く、江戸時代後期から明治にかけて飛騨の産物を調査した『斐太後風土記』に上宝村(現・高山市上宝町)が山椒の産地として記載されている。江戸時代に将軍に山椒を献上したという記録もある。元々高原川流域に自生していたものと考えられていることからこの名がある。一般的な山椒に比べ、実が小ぶりで深い緑色をしており、非常に香りがよく、長期保存が可能など、高品質が評価されている。2005年度に伝統野菜として認証された。
 山椒の辛み成分には局所麻酔の作用もあるため、青山椒を食べると舌がしびれる。また大脳を刺激して内臓器官の働きを活発にする作用もある。


高原山椒
 若い実は青山椒、実山椒としてゆでて佃煮にしたり、塩漬けにしておくと、こんぶやちりめんじゃこと炊き合わせた佃煮にも。熟した実の皮の乾燥粉末は、粉山椒としてうなぎのかば焼きなどに振りかけたり、七味唐辛子に使われる。

 ☆   ☆   ☆

 中西氏からは、上記の他、飛騨独特の農産物として、アズキナ(ナンテンハギ)、折り菜(茎立菜)も紹介されました。

◆アズキナ(ナンテンハギ)
 元々は野生の山菜。春に天ぷらなどで地元で食べられていたものが、山菜料理や土産加工品としての需要が多くなったことから、畑地栽培されるようになったもの。アズキナという名は、ゆでた時に小豆のようなにおいがすることから。別名のナンテンハギは、葉が南天の小葉によく煮ているため。
 飛騨では、天ぷら、油いため、おひたし、あえものなどで食べられる。

◆折り菜(茎立菜)
 飛騨特有の野菜の一つで、長い冬ごもりから、青い野菜を待ち望んだ春一番の野菜として、古くから栽培されている。ビタミンA・Cが豊富な茎葉野菜で、苦みが少なく、なめらかな食感。有色野菜の端境期に収穫できる栄養価の高い野菜として、おひたしや酢みそあえなどに大いに利用されている。

※山間地の飛騨では漬けもの文化が盛んで、漬けものを煮る「にたくもじ」、いためる「漬けものステーキ」などの独特の食べ方があることもこともうかがいました。こうしたその地独特の食文化の話も大変好評でした。

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