第3回 野菜の品種別調理特性検討会(ダイコン)報告-2●
【講演概要】
「日本のダイコンの系統別品種と特徴」
(株)トーホク 育種部 農学博士 新倉 聡氏
■ダイコンの歴史

 ダイコンは約4千年前の古代エジプトにおいてピラミッド建設労働者へ給与されていた事実から、世界的に古くから主要な野菜であったことが想像されます。我が国においても、古事記ならびに日本書紀に『於朋泥(おほね)』として記されていることから、既に8世紀には伝来していたとされ、その後品種分化が顕著に発達し、江戸時代には様々な地方在来品種が全国各地に分布するに至ったと考えられます(北村 1958)。


新倉 聡氏
■利用形態と作付面積の減少
 ダイコンの利用形態は多岐・多様であり,例えば沢庵漬けに代表される漬け物、おでんに代表される煮物、その他、切り干し、なます、おろし、サラダ、刺身のつまなど、日々のおかずへの利用として周年なくてはならない食材です。加えて、お寺の大根焚き、神事の際の供物、春の七草の一つとして挙げられるなど、日本の風土・食文化に密接に関係しています。そしてこれら様々な利用形態にあった品種が実に多数存在しており、それらの多くが現在まで引き継がれています。『日本の大根』(古里・宮沢1956)の中では109種の地方在来品種が紹介され、作付面積も約36,400ha(2009年;農林水産省「野菜生産出荷統計」より)と野菜の中で最多・最大を誇っており、まさにダイコンは日本を代表する野菜の一つでもあります。
 しかし、計算上では2034年には「0」になります。これは日本のダイコン栽培面積の話で、昭和元年〜平成21年までの変遷(上述農水省データ)より類推したものです。それまで約10万haであったものが、昭和38年から一貫して減少し続けています。このままのペースで今後も減少し続けると仮定したものなので、現実味は乏しいのですが、それにしても由々しき事態です。重量野菜であること、生産者の高齢化、食事の欧米化等が理由に挙げられますが、その間、作り易く、どの食べ方にもオールマイティな青首大根が主流で、その利用範囲が狭まれ、消費者の飽きが来て消費量が減少したことも一因に考えられます。
■用途別品種とその特長
 一方その反動により、最近では京野菜や加賀野菜の復刻から、煮食やおでんに最適な聖護院大根や打木源助大根が見直され、加えて、私の地元栃木県の郷土料理「しもつかれ」には都ダイコンが欠かせませんし、「なます」に適した三浦大根、守口大根の粕漬けも根強い人気があると聞きます。
 その青首大根はもともと愛知県在来の「宮重」品種群を素材として育種された秋播種専用種でした。しかし現在では、青首大根は一年中需要があるため作型分化が進み、見かけは「青首大根」でも、それに応じて新しい品種が育成されています。ここでどの時期にもまず求められる育種目標としては、土壌間や年次間の環境変化に対しての安定性、生育が斉一であること、「す」入りが遅い等が挙げられます。これらに加え、例えば春播種では低温・長日の時期にあたり、「とう」立ちしやすくなるため、「時無」品種群より「とう」立ちの遅い性質を導入した品種。夏播種では、ウィルス病や、赤芯症等の生理障害に強い「みの早生」品種群を素材とした品種が育種目標とされます。今後、春播種では、特に重要となるのは、食味の良さ、栄養成分の高さ、耐病虫性(低農薬・無農薬)といった所と考えています。
■新品種に求められる形質
 ここで、「良いダイコン」とはどのようなものでしょうか? 我々育種家にとって、それには、皆さんが想像される前段落部分以外にも、容易に想像できない部分「良いタネを採種できる」ことが求められます。現在青首大根のみならず、練馬、みの早生、聖護院等市販品種はほとんどがF1(一代雑種)品種になっています。この利点は、強勢(雑種強勢)を示すことにより病気に強くなる、揃いや肥大が良くなるといったことです。
 2008年の国民健康・栄養調査によると、一人当たりの一日の野菜摂取量は平均295g。中国や韓国の半分以下で、米国よりも少なくなっています。女子栄養大学吉田企世子名誉教授は、「野菜をおいしく食べていないのが摂取量が増えない理由のひとつだろう」(2010年11月7日付け日本経済新聞)と分析されています。栽培面積が「0」になれば私の仕事も無くなります。そうならないように、この講演がダイコン、引いては野菜全体の消費拡大の一助になれば望外の喜びです。
■品種開発と育種
 講演ではこのF1品種の育種・採種現場を中心にお話しくださり、自家不和合性を利用したF1採種法について、また課題についてやさしく解説していただきました。

ダイコンの品種別調理特性検討会報告
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